運賃交渉の主導権を握れ!新物流二法が運送業界にもたらす変革
物流二法の改正案が2024年4月26日に成立、5月15日に交付されました。この法改正によって運送業界が良くなるのか気になっている方は多いと思います。
物流二法とは、「貨物自動車運送事業法」と「物資の流通の効率化に関する法律」のことであり、政策物流パッケージ内で提唱されている「商慣習の見直し」や「業務効率化」を推進するための施策となります。
長い荷待ち時間や、運送と関係のない荷役作業や附帯作業を運送業者に強いるといった、荷主による悪しき商慣習の是正というありがたい措置がある一方で、運送会社に対しても、多重下請け構造を見直すための改正案が盛り込まれている点も注目すべきところではないでしょうか。
今回は、新物流二法の改正案が業界に与えるメリット・デメリットを解説していきます。
物流二法の施行はいつから?
「公布の日から原則1年を超えない範囲内において政令で定める日から施行される」とあるため、基本的にはどんなに遅くとも2025年5月15日には施行される計算になります。
過去の法改正から施行までの流れを見ていると、2024年12月や2025年1月から施行されるのではないかと推測しています。
しかし、改正案の中で明文化されている特定荷主や特定貨物自動車運送事業者の定義が不明瞭だったり、実運送体制管理簿に関する詳細が少し不明確であることが気になります。
「いやいや、そもそも特定荷主とか特定貨物自動車運送事業者とか実運送体制管理簿って何?」
という方もいると思いますので、次の章でその辺を説明していきます。
物流二法を表で解説。努力義務で大丈夫?の妙
(※1)元請けの貨物運送事業者に作成義務がある。
(※2)下請に出す輸送重量が一定以上の運送事業者を指す(特別一般貨物自動車運送事業者)。
(※3)年度の輸送能力が一定以上の運送事業者を指す(特定貨物自動車運送事業者)。
(※4)一定以上の貨物重量を年間で取り扱う荷主を指す(特定荷主)。
大まかに分けると、上記のようなポイントが物流二法の改正案に含まれます。
運送会社は、一般貨物自動車運送業、特定貨物自動車運送業、貨物軽自動車運送業に分類されます。一般貨物については、さらに下請けに多くの業務を委託している事業者に対して、国土交通大臣が特別一般貨物自動車運送業を指定するケースもあるようです。
また、年度の輸送能力が一定以上の運送会社は「特定貨物自動車運送業」(特別とは異なる)に指定されると、義務が増える仕組みになっています。
荷主も同様に、年度の貨物重量が一定以上の場合は「特定」がつき、様々な義務が追加される統一的な構造になっています。
一般貨物自動車運送事業者と特定貨物自動車運送業に課せられる義務とは?
一言で説明するなら「適正な価格の収受と下請け構造の是正」です。
具体的には、運送契約書への役務の内容およびその対価、附帯業務や荷役作業がある場合はその内容と対価を明記した書類の取り交わしが義務付けられています。つまり、業務内容と対価を詳細に設定して、荷主と認識を合わせる必要があるため、契約内容の見直しが必要です。
次に、健全化措置の実施努力義務がありますが、下請事業者、特に実際に荷物を運んでいる実運送会社に利益が出る価格設定、荷主から提示された価格が概算額より低い場合の交渉の実施、下請けは2次請けまで、多重下請け構造是正のための仕組みです。
3つ目は元請け事業者の義務として実運送体制管理簿の作成で、委託された運送ごとに必要です。
- 実運送事業者の名称等
- 実運送を行う貨物の内容及び区間
- 実運送事業者の請負階層等を記載
- 1年間営業所に備え置く
ポイントは委託された運送ごとに作成が必要であることです。
少々無理があるのではないかと感じます。
4~5つ目の運送利用管理者の選任と運送利用管理規程の作成は特別一般貨物自動車運送事業者に課せられた義務で、特別に指定された時点で運送利用管理者を選任し、届け出る必要があります。
さらに、運送利用管理規程(下請け事業者の健全化措置)も明文化する必要があります。内容は以下の要素が必要のようです。
- 健全化措置を実施するための事業の運営方針
- 健全化措置の内容
- 健全化措置等の管理体制
下請け事業者にどの程度輸送を依頼していると「特別」扱いになるのかは気になるところです。
「傭車している会社」であれば、対象になる可能性があるため、他人事ではないですよね。
最後に、中長期的な計画の作成・定期報告義務です。
特定貨物自動車運送事業者に課せられる義務で、積載率の向上に資する措置を講ずるための中長期計画の作成と報告です。
「中長期的な計画の具体的な内容は?」
と思われるかもしれませんが、現時点(2024年8月)では詳細は分かりません。
貨物軽自動車運送事業者に課せられる義務とは?
こちらも一言でまとめるなら「安全運転しなさい!」です。
その背景として、軽貨物自動車運送事業者は、今まで貨物自動車運送事業者と比べて厳しいルールがありませんでしたが、2018年から2024年の6年間で死亡事故が倍増したことで、メスが入ったようです。
貨物軽自動車安全管理者講習の受講と、貨物軽自動車安全管理者の選任が必須になり、事故報告義務が新設されました。
貨物軽自動車安全管理者は運行管理者と違って国家資格ではないため、講習を受講して選任すればOKという仕組みのようです。
ちなみに、軽貨物自動車でもバイク便は対象外というルールになっているようで、その点は今後厳しくなっていく可能性があります。
荷主に課せられる義務とは?
ズバリ「荷待ち時間の削減、荷役作業・附帯作業の省力化」です。
特定荷主においては、特定物流統括管理者の選任が必要となります。
特定物流統括管理者には以下の義務があります。
- 中長期計画の作成
- 運転者の負荷を低減する事業の運営方針の作成
- 物資輸送における貨物自動車への過度の集中を是正するための事業(モーダルシフト)の運営方針の作成
- ②③に係る事業の管理体制の整備に関する業務等を統括管理すること
特定物流統括管理者が実施すべき内容ですが、なかなか大変です。
俯瞰的に全体を見渡す能力に加えて、的確に計画を立案して指示できる能力が必要です。
そのため、事業運営上の重要な決定に参画する管理的地位にある者を充てなければならないとされています。つまり、非常に偉い人がやるべきということです。
特定荷主に指定されるのは、かなりの大企業になってしまうのではないでしょうか。
そう仮定するなら、複数の子会社を作って貨物量を分散させる会社も出現しそうです。
これで物流業界はよくなるのか?
ズバリ、良くなります。
この仕組みの一番のポイントは、国が介入できることです。
特定荷主に該当する企業は、国が直接指導するほか、問題があれば「勧告」し、勧告に従わなければ「命令」もできる点にインパクトがあります。
ただし、考慮すべきは、日本の文化である下請け構造です。
運送業界だけでなく、建設業界やソフトウェア開発のシステム業界、クリエイターのいるデザイン系の業界など、どこを見ても多重下請け構造が存在します。
運送業界だけの問題ではありません。
利用運送事業者を排除する考え方を正とするなら、仕事の仲介を行っている求荷求車システムが対象にならないのは筋が通らないという話にも発展しそうです。
実運送体制管理簿が正常に機能するとは思えません。これ、運送会社の負担が増えているだけではないでしょうか。
下請けのデメリットだけが強調されているように見えるのは非常に気になるところです。
とはいえ、実際に荷物を運んでいる会社がしっかりと恩恵を受けられる体質に変わっていくのも事実。
これで物流業界が良くならないわけがありません。
新物流二法まとめ
最後に一般貨物自動車運送事業者としてやらなければならないことをまとめます。
- 運送契約内容の書面交付
- 健全化措置の実施努力義務
- 実運送体制管理簿の作成義務
運送契約内容についての書面交付は義務です。もし契約書に記載されていない荷役作業や附帯作業が行われているなら、これらも明記する必要があります。
運賃、附帯作業、荷役作業、荷待ち時間、料金設定を明確にする必要があります。もちろん、燃料サーチャージも忘れてはいけません。
荷主も価格交渉に応じなければならない義務があるため、無視はできません。価格交渉を今しなくていつするのか、というメッセージです。
また、健全化措置の実施努力義務は多重下請けの是正に関わる部分です。元請けから見て二次請け(※元請け ⇒ 一次下請け ⇒ 二次下請け)までとなっています。努力義務ではありますが。
利用運送は締めつけが厳しくなるため、その点は念頭に置いておくべきです。
最後は実運送体制管理簿の作成義務です。
元請けの運送会社は、実運送会社を把握できるように一運送ごとに実運送体制管理簿を作成しなければなりませんし、荷主に実運送体制管理簿を提示する必要があります。
実運送体制管理簿は保管義務があるため、通常業務に組み込まれ、同じ1年間の保管義務がある書類に追記する構造になっているのが理想なんですけどね。
実際にどうなるかは国土交通省の情報公開をお待ちください。
物流二法に関する様々な資料を精読しましたが、国がここまで介入するのは非常に珍しいことです。
これは国からの強烈なメッセージです。
皆さんもこのメッセージをどうとらえるべきか是非考えてみてください。
今回はここで失礼いたします。