フィジカルインターネットについて考える
フィジカルインターネットと呼ばれる概念が、従来の物流システムに一石を投じようとしています。20世紀に誕生したインターネットが情報の流れを変革したように、21世紀の物流をリードするフィジカルインターネットは、モノの流れを根本から見直そうとしています。
いつものように荷物を発送し、運送会社に運んでもらう。この当たり前の流れを疑ってみる必要があります。果たして、現状の物流は本当に効率的なのでしょうか?無駄はないのでしょうか?
フィジカルインターネットは、物流のあり方そのものに一石を投じる革新的な発想です。ただしそこには課題もあり、標準化された積載ユニット、輸送経路の最適化、オープンなネットワーク、そして物流の共有化、これらについては議論の余地が大いにあると言われています。
今回はそんなフィジカルインターネットについての話題です。
現状の物流の課題
現在の物流の課題としては、やはり2024年問題がみなさまの頭の中にまっさきに浮かぶでしょう。労働時間制限による物流の総量の低下は今まさに始まろうとしています。
他方で、運送業に従事する労働力の低下、EC市場拡大による物流の総量の増加、荷待ち時間や積載量問題など、課題は山積しています。
フィジカルインターネットとは
フィジカルインターネットとは、物流の概念を根本的に変革しようとするアプローチです。インターネットのネットワークのように物流網を形成することからこの名前がついており、その主な特徴は以下の通りです。
- 標準化された積荷ユニット
荷物を標準サイズのコンテナや容器に詰め、これらをモジュール化した輸送ユニットとして扱います。これにより、異なる輸送手段間での積み替えが容易になります。
- エンド・ツー・エンドのネットワーク
出発地から目的地までのルートが最適化され、荷物は複数の輸送手段を経由して目的地に到達します。従来の物流と異なり、複数の中継地点で積み替えが行われます。
- オープンなハブ・アンド・スポーク方式
主要な中継地点(ハブ)と、そこへ荷物を集約する拠点(スポーク)から構成されるネットワークです。輸送力と需要にあわせて動的に最適化されます。
- 共有物流システム
複数の企業が同じネットワークとハブを共有し、輸送力を集約することで効率が向上します。荷物は企業を超えて統合的に輸送されます。
言葉で説明すると難しいのですが、ざっくりしたイメージは下記のようになります。これを企業内ではなく、業界全体でやろうとすることがフィジカルインターネットになります。
フィジカルインターネットのメリットと課題
図で見て一目瞭然ですが、それぞれのトラックの輸送距離が格段に短くなります。これにより従来の方法では運びきれなかった荷物まで運べるようになる可能性が上がります。そして、車両1台あたりの移動距離が短くなることで、輸送コスト・CO2の排出削減にも繋がるでしょう。
良いことばかりのようですが、実は課題も山積みです。
パレットやコンテナの規格統一のほか、どの荷物がどこにあるかという情報を共有する必要があり、それに伴うセキュリティを担保も必要となります。中継拠点に大量にトラックが殺到することが考えられ、周辺道路の著しい混雑や待ち時間が発生することも想像に容易いです。
しかし、一番難しいのは次の問題なのかもしれません。
荷主は誰にお金を払うのか
現在の仕組みはわかりやすいです。
荷主A:「〇〇を100個、A地点に運んでください。料金はXX円でお願いします。」
運送会社A:「まいどあり。」
しかし、フィジカルインターネットの世界になると、1社が最初から最後まで荷物を運ぶ訳ではなくなります。なので…
荷主:「〇〇を100個、A地点に運んでください。料金は?」
運送会社A/B/C/D:「「「「????」」」」
とまぁこれは極端ですが、料金問題を詰めるのはだいぶすったもんだしそうであります。荷主が運送会社A/B/C/Dにそれぞれお金を払うのは現実的ではないので、どこかが代表して受け取って、それを分配するという形になると思いますが、ここに企業間のパワーバランスが見え隠れしそうな気がします。
課題はあるが、仕組みは良い
一筋縄ではいかない印象のあるフィジカルインターネットですが、業界全体として効率化を目指せるという仕組みは良いものかと思います。
企業間をまたいだ動態管理なども必要になってくるので、動態管理の重要性に関して再注目されそうな印象を受けます。
フィジカルインターネットがすぐに社会実装されることはないでしょうけれど、実際に経産省を始めとしたワーキンググループにて検討されており、今後のロードマップも公開されているようです。 フィジカルインターネットのロードマップ
近年の規制や法律の変化が目まぐるしい物流業界ですが、まだまだ変革の途中のようです。