実運送体制管理簿とは?義務化の背景や対象、いつから?

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実運送体制管理簿とは?義務化の背景や対象、いつから?

物流二法改正(流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律・貨物自動車運送事業法)の中に記載のある、「実運送体制管理簿の作成義務化」についてご存知でしょうか?

「実運送体制管理簿ってなに?」

「運送会社はみんな、これ作らないといけないの?」

「どのタイミングで、どのくらいの頻度で作ればいいの?」

「保管義務ってあるの?」

こんな疑問をお持ちの方が多数いらっしゃると思います。ということで、今回は実運送体制管理簿の目的から作成のポイントまで解説していきたいと思います。

実運送体制管理簿とは?

実運送体制管理簿とは、荷主から運送の委託を受けた元請け事業者が実際に荷物を運んだ実運送事業者(下請け会社)の名称等を記載した管理簿のことです。法施行は2025年4月1日からとなります。

「負担を増やしてまで実運送体制管理簿を作成しないといけないのか」という声が聞こえてきそうです。

確かに業務負担の増加は懸念されますが、この制度が必要となった背景には業界特有の3つの課題があります。

物流業界の2024年問題とドライバー不足

物流業界は2024年問題、改善基準告示の改正対応やドライバー不足など、課題が山積みです。

特に時間外労働時間960時間上限規制の導入により、「走れば儲かる」という従来の概念が崩れ、ドライバーの給与減収から離職へとつながる負の連鎖が生じています。

運賃値上げや付帯作業の請求の滞り

時間外労働960時間上限規制への対応として、業務効率化や価格交渉は当然の流れです。政府は標準的な運賃の設定、荷役作業の費用設定、燃料サーチャージの導入、さらにトラックGメンによる価格交渉拒否荷主への是正指導など、様々な施策を実施してきました。

その結果、運賃や諸経費については徐々に改善が見られるものの、まだ十分とは言えない状況が続いています。

国土交通省が令和6年1月~3月に実施したアンケート(回答者数約2000社)によると、運賃交渉の実態は以下の通りです。

国土交通省の資料画像
出展元: 国土交通省トラック・物流荷主特別対策室『トラック物流2024年問題に関するオンライン説明会資料(令和6年7月19日版)』より抜粋
 

運賃交渉を実施した事業者は71%に上り、そのうち75%が値上げに成功しています。一方で、価格交渉をしていない事業者が29%存在し、また希望額を収受できない、あるいは交渉に応じない荷主も16%近く存在している状況です。

多重下請け構造の課題

3つ目の課題は「多重下請け構造」です。

元請け→一次請け→二次請け→三次請け・・・

と続く重層的な構造が、取引の不透明性を生み、実際に荷物を運んでいる事業者の収益悪化、さらにはドライバーの低賃金や長時間労働を引き起こしてきました。

「実運送体制管理簿」で物流業界に訪れる3つの変化

実運送体制管理簿の作成により、以下の3つの変化が期待されます。これらは認識の変容(従来の考え方の見直し)と行動の変容(新たな考え方に基づく具体的な行動)をもたらすものです。

可視化と透明性向上

物流の全体像が可視化され、不透明な委託構造の是正が進むことが期待されます。

適正な運賃の確保

下請け手数料の基準(運賃の10%)が明確に設定され、これによりドライバーの賃金改善につながることが期待されます。

因みにこの下請け手数料ですが、多重下請けが続くと実運送会社から元請けまで10%の利用運送手数料が乗っかっていく仕組みのようです。

 
 国土交通省の資料画像  
 出展元:  国土交通省トラック・物流荷主特別対策室『トラック物流2024年問題に関するオンライン説明会資料(令和6年12月18日版)』より抜粋    
 

これ、5次請けとかになると最終的に元請けに到達するころには運賃+運賃の50%の手数料が乗っかることになります。

荷主企業の責任強化

 

実運送体制管理簿の閲覧や謄写が可能となり、荷主には委託先の法令遵守状況や運賃の適正化を確認する責任が生じます。

 

これらの変化により、物流事業者の行動も変わっていくことが予想されます。具体的には、義務化を契機として業務プロセスの見直しやデジタルツールの導入による物流効率化が進み、結果として多重下請け構造の是正につながることが期待されます。

実運送体制管理簿の作成ルール

実運送体制管理簿について詳しく説明する前に、関係する事業者と用語について整理します。

実運送体制管理簿の登場人物と用語

  1. 元請け:荷主(真荷主)から直接仕事を受けた会社
  2. 一次請け:元請けから仕事を受けた運送会社
  3. 二次請け以降:一次請けから順次仕事を受けた運送会社(下請次数としてカウント)
  4. 下請次数:下請けの階層のこと、一次、二次の部分のこと
  5. 荷主:荷物の運搬を依頼している依頼者
  6. 真荷主(しんにぬし):実際に荷物の運搬を依頼している最初の依頼者

また、重要な用語として「真荷主」があります。これは実際に荷物の運搬を依頼している最初の依頼者を指します。

ここで特に注意が必要なのが「利用運送事業者」の位置づけです。利用運送事業者とは、自社で運送手段を持たずに顧客から荷物を預かり、運送を手配する事業者を指します。

この場合、以下のような特徴があります

  1. 荷主の委託先に利用運送事業者が介在する場合、その事業者が「真荷主」として扱われます
  2. 利用運送事業者は運送能力を持たないため「元請け」とはなりません
  3. 荷主が直接運送会社に依頼する場合は、荷主=真荷主となります
  4. 利用運送事業者と貨物運送事業者の両方の許可を持つ企業の場合は、下請けに出す際に実運送体制管理簿の作成が必要
 

因みにもし、「元請け」の下に「利用運送事業者」が介在していた場合はこのように下請次数はカウントされます

この場合利用運送事業者は下請次数にカウントされないのでご注意を。なんと言うか、「ふふん」な内容ですね

実運送体制管理簿は義務化のポイント

 

実は実運送体制管理簿の作成義務・保管義務・開示義務は、以下の条件となります。

 
  1. 作成主体:元請け事業者
  2. 発生条件:傭車先(下請け事業者)に仕事を依頼した時
  3. 発生条件2:貨物の重量が1.5トン以上の場合
  4. 作成タイミング:1運送ごと
  5. 保管期間:1年間
  6. 開示:荷主からの請求時に業務取扱時間内であれば、閲覧・謄写が可能なこと

荷主への開示は求められたらすぐ出せることが条件です。毎回提出が必要なわけではないです。

 

後、重要なのは貨物自動車運送事業法第24条の5の規定により貨物の重量が1.5トン以上の場合に必要になるとあります。

 

実運送体制管理簿の作成が不要なパターン

  
  1. 元請け自身が運送を行う場合
  2. 貨物の重量が1.5トン未満の場合
  3. 常に同一の運送事業者が実運送を行う旨の契約が締結されている場合
 

前章の条件をご覧になって気づいたと思いますが、元請け事業者自身が運送する場合は作成不要です。

   

また、貨物の重量が1.5トン未満の場合や実運送会社と契約をしている場合など、作成不要となります。

下請け事業者は何もしなくていいのか?

もちろん、そんなわけはありません

 
  1. n次請け事業者:次の下請けに「荷主・元請け情報と自信の下請次数を申告」
  2. 実運送会社:元請けに「会社名、下請け次数、荷物の内容、運送区間を報告」
 

下請けは次の下請け事業者へ情報伝達をする必要があります。当然、実運送会社は元請けにより詳細な報告が必要になるわけです。

しかし、正確に下請次数を元請けが把握できるのか疑問が残りますけどね。伝言ゲームは総じてうまくいかないものです。

 

特に利用運送事業者が下請け先に混ざってしまうパターンだとややこしいですよね。

 

ただ、政府の下請け構造の是正に対する並々ならぬ想いは伝わってきますし、本気で運送業界を良くしていこうという意思を感じます。

実運送体制管理簿に必要な記載事項

 

記載様式に特定の形式は定められていませんが、以下の項目の記載が必須となります。

 国土交通省の資料画像  
 出展元:  国土交通省トラック・物流荷主特別対策室『トラック物流2024年問題に関するオンライン説明会資料(令和6年12月18日版)』より抜粋    
 
  1. 荷主名
  2. 運送区間
  3. 請負階層(請負次数)
  4. 実運送事業者名

前述しましたが、貨物運送完了日から1年間の保管が必要です。なお、デジタルデータでの保管が推奨されています。

1運送毎に発行が必要な場合にはデジタルデータでの管理の方がスマートだとは思います。

実運送体制管理簿まとめ

実運送体制管理簿の義務化は、多重下請け構造の透明化を進め、ドライバーの労働環境改善を目指す重要な施策です。

 

ということで、実運送体制管理簿のまとめです。まず、一番シンプルな荷主・元請け・一次請け・実運送事業者。

 

次に利用運送会社が真荷主となる場合のパターン。

   

実運送体制管理簿の作成の条件や義務を一覧にまとめました

 
項目 詳細
作成主体 元請け事業者
発生条件 傭車先(下請け事業者)に仕事を依頼した時
発生条件2 貨物の重量が1.5トン以上の場合
作成タイミング 1運送ごと
保管期間 1年間
開示 荷主からの請求時に業務取扱時間内であれば、閲覧・謄写可能であること
n次請け事業者 次の下請けに「荷主・元請け情報と自身の下請次数を申告」
実運送会社 元請けに「会社名、下請け次数、荷物の内容、運送区間を報告」

最後に実運送体制管理簿に記載するべき事項のまとめです。

必須項目
荷主名
運送区間
請負階層(請負次数)
実運送事業者名

以上、まとめでした。

因みに本省令の公布は2025年1月が予定されており、これからさらに詳細な情報が出てくる見込みです。

公布されましたら、詳細な情報を追記させていただきます。

さて、企業にとっては新たな業務負担となりますが、これを機にデジタル化や業務効率化を推進し、より健全な物流体制を構築するチャンスともなります。

実運送体制管理簿が運送事業者の更なる飛躍につながる施策になることを願うばかりです。

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